東急建設株式会社は、鉄道や道路、トンネル、橋梁といった土木インフラや、ビル、住宅、物流センターといった建築物の建設など、幅広い分野の建築・土木事業を手がける総合建設会社です。そんな事業のひとつとして、現在、施設の耐震補強工事に取り組んでいます。この工事において、堆積した汚泥をはじめとした水路の調査にIBISを利用しています。今回はそんな東急建設の取り組みについて紹介しましょう。
地下に張り巡らされた水路の状況を把握する
今回、点検する施設は一般家庭の下水と雨水を浄化して川に流す役目があります。
この施設では近隣の施設から圧送されてきた汚水を受け入れ、沈殿池で浮遊物を除去し、反応槽で微生物を使って有機物や窒素、リンなどを除去するなどして汚水を綺麗にして川に流しています。
施設の地下にはこうした沈殿池や反応槽が設置されており、これらを結ぶ水路が張り巡らされています。東急建設が工事を請け負っている水路は、幅約3m、高さ約2mの鉄筋コンクリート製のボックスカルバートで、長さが50~60mほどあります。同施設の運転が始められたのは1984年で、将来発生することが予測されている大きな地震に耐えられる施設とするため、東急建設が耐震補強工事に取り組んでいます。
硫化水素や酸素欠乏など人が立ち入るのは危険な箇所をIBISで撮影し、汚泥状況を確認
この水路の工事では、最初に内部がどうなっているかを調査します。締切りによりドライ化した後の既存水路内は、土砂が堆積し有毒ガスや酸欠の発生が懸念され、作業環境としては危険を伴う場所です。この汚泥をバキュームで吸ってきれいにしながら、長い水路を進んでいきます。ただし、硫化水素が発生する可能性や酸素欠乏の恐れがあるなど、人が立ち入る作業環境としては危険を伴う場所になります。
「IBISを使う前は水路の中をハイウォッシャーで洗い流しながら前に進むしかなかったため全体像が見えず、作業者にとって危険な状態で、作業を進めるしかなかった。また沈殿している汚泥は、想定は5cm程度となっているものの、実際にはその10倍の50cmも堆積していることもあった」(中林氏)といいます。こうした汚泥の量や水路内の既存設備の位置といった、全体像がつかめないと作業の計画が立てられないという課題がありました。
東急建設株式会社土木事業本部技術統括部土木設計部ICT推進グループ 和田勝利氏
IBISが撮影した映像から汚泥の量が精度高く把握できる
東急建設ではICTやIoT技術活用の一環として、早くから土木・建築の現場にドローンを試験的に導入しています。「さまざまなドローンを探していたところ、IBISに見つけた。ただ、最初は私たちが使う用途とは違っていたため、しばらくは実際に導入することはなかったが、この施設の耐震補強工事の現場でIBISが使えるという案件が出てきたので、水路の事前調査で導入することとなった」(和田氏)といいます。また中林氏によると「3D化ができ、画像処理もできる。また、屋内で壁にぶつかっても飛行を続けられるなど、我々が課題としている問題をIBISなら解決できると見込んで導入してみた」そうです。
調査では現場のオペレーションをリベラウェアに委託。IBISを50mの長さがある水路の中で飛行させて動画を撮影し、その映像から3Dデータを作成しました。中林氏は実際に利用してみて、「IBISが撮影したデータから3Dデータができると、底にたまっている汚泥の高さがここは50cm、ここは1mとデータから堆積量の測定ができる。その精度もとても高い」といいます。また、東急建設が工事を担当している水路は、入り口の反対側にあたる奥のほうがL字型に曲がっていて汚泥がたまりやすく、そのためその先には人が立ち入ることがかなり困難だといいます。そこにもIBISが進入して映像を撮影し、データ化できたことで全容がつかめたと中林氏は言います。
施設には同様の設備が多く、IBISが使える現場が広がる可能性も
中林氏が所属する東急建設の東日本土木支店土木部では、本施設の仕事を多く請け負っていて、耐震補強のほか、シールド工事やポンプ場の建設などを行っています。今回の現場のように、人が立ち入るのが困難な現場も多く、IBISによる調査はそういった場所で力を発揮できるのでは」(中林氏)といいます。また、施設には似たような設備が多く、耐震補強工事をはじめとして同様の工事はずっと続くといい、IBISが使える現場の広がりが見込めるとのことです。
今回点検した施設では、年に1~2回程度、工事の技術検査を行っています。東急建設の現場にも検査がありましたが、そのときにIBISで撮影した映像を見た発注者の職員も、大いに関心を持っていたといいます。
東急建設株式会社 東日本土木支店土木部 中林拓真氏
これから進む先の有害ガスの状況をリアルタイムで把握していきたい
今回、東急建設のこの現場ではIBISによって取得したデータから、汚泥の堆積量や未知の設備の状況をあらかじめ知ることができるというメリットが確認できました。今後はさらに、IBISを使ってガス検知ができることに期待したいと中林氏は付け加えます。
現在は、硫化水素が充満しているような現場に作業者が進入する場合には、ガスマスクを装備して、硫化水素を測定できる機器を持って入らなければなりません。「ドローンは人が入れない有害なガスがあるような場所でも入っていける。そのためIBISにガス検知機能があると、いわゆる“カナリヤ”のように使うことができる。特に今回の水路のように長い空間では、入り口付近と奥で状況が異なることがある。そんなときに、IBISが先行して奥の状況を知らせてくれれば、より安全な作業ができる」(中林氏)といいます。
東急建設株式会社土木事業本部技術統括部土木設計部ICT推進グループ 和田勝利課長代理(左)と、東日本土木支店土木部 中林拓真氏(右)。