メンテナンス・工事のビジネスにつながる山九のドローン点検サービス
山九株式会社 関西エリア 関西エリア統括部 企画グループ 本間真也マネージャー(右から2番目)
関西支店・和歌山事業所 仁儀健太郎氏(右から3番目)山本拓斗氏(右から4番目)
エンジニアリングをはじめロジスティクス、オペレーションサポートなどを手掛けるプラント保守大手の山九。プラントエンジニアリングでは、鉄鋼、石油化学、環境、電力といった幅広い産業分野に関わっており、その中で新規プラントの建設や改造のための、設計から工事にいたるまで、ユーザーの求めに応じてさまざまなサービスを提供しています。また、オペレーションサポートでは、鉄鋼、石油化学といった素材製品を製造する工場構内で、構内の物流や操業支援、プラントの設備工事、メンテナンスを手掛けています。同社ではこうしたサービスのひとつとして、設備の不良箇所を点検する目視点検にIBISを導入しました。設備の内部を飛行するIBISで不良箇所を写真で撮影し、記録として残すのにIBISを活用しています。
転落だけでなくガス中毒や酸欠のリスクのあるプラント設備点検
プラント設備で不良箇所を確認する点検作業は、人による目視点検が中心です。そのため、人が点検対象まで近づく必要があります。そのため、点検箇所に対して足場を設置したり、高所作業車を使って点検を行ったりしますが、こうした前段階の準備のために時間やコストがかかることが課題となっています。
また、こうした設備の不良箇所は、高所や人が入りづらい狭くて暗い場所にあることが多く、作業は困難で危険が伴います。また、操業中は人に有害なガスで満たされているような設備を点検する場合、いったんこうしたガスを取り除いてから作業者がマンホールから進入して点検を行いますが、「ときにこうしたガスが完全に排出できておらず、作業者が酸欠になるといったリスクもある」(仁儀氏)といいます。
鉄鋼業界、石油化学業界でのLiberawareの施工実績を評価
山九はこうした人が入って作業することが困難な場所に対して、人の代わりに進入して点検を行う手段としてIBISを導入しました。「Liberawareは当社がメンテナンスを担当している鉄鋼や石油化学といった業界でも施工実績があることも評価に繋がった」(本間氏)といい、Liberawareが日本のドローンメーカーであり、部品も国内調達であることや、情報漏えいリスクという点においても信頼性が高く、ドローンを利用するにあたってお客様からの信頼が高いそうです。
また、実際にオペレーションする作業者の立場からは、「他のドローンと比較して機体がとても軽く、点検対象に接触しても壊れにくい」(仁儀氏)こともメリットであり、さらに、こうしたパイロットを育成する点においても、講習会やスペシャリスト試験といった手厚いサポートがあることが決め手となったといいます。
人が進入することが危険な場所に対するIBISのニーズの高まり
2020年からIBISを導入した山九は、これまでに鉄鋼メーカー、石油化学メーカーの生産設備などの点検で利用。ガス洗浄設備や排ガスダクトといった設備を撮影し、さらにその写真からオルソモザイクを生成するといった形で活用しています。とりわけIBISを点検に利用するのは、人が点検するのにリスクが高い場所。そのため、これまで点検が十分にできていなかったり、まったく点検できていなかった場所を点検できるようになりました。
「先日点検した煙道は壁面がレンガ造りで、一部が崩れているような状態。そこに人が入って点検する場合は、あらかじめ外から振動を与えて、容易に崩れてしまうであろう部分を落として下から覗いて見るが、それでもレンガは崩れてくるリスクがある。IBISはそんな煙道にあらかじめ入れて安全な状況を確認するのに役立っている」(仁儀氏)。ドローンを使うことで点検を効率化できるということよりも、“人が進入することが危険な場所”に対してIBISを使った点検のニーズが高まっています。
設備故障の翌日にはIBISの点検により補修方法を検討できた
こうしたIBISによる設備点検に対する理解が進むにつれ、山九では顧客からの引き合いが増加。また、管理者、監督者、営業担当といった、パイロット以外のスタッフも勉強会・体験会を通じて操縦を体験するようにしています。それによりIBISに対する理解が深まり、顧客のニーズに対してより具体的なIBISの活用を提案できるようになったそうです。
また、顧客の要望に対して素早く対応できるというメリットもあります。「先日、顧客から設備が壊れてしまったのでドローンで調査してほしいと依頼があり、その翌日の午前中にはIBISを設備の中に入れて、どこがどう壊れているのかを調査した。顧客はIBISで撮影した映像を見て、その場で補修方法を検討することができた」(本間氏)といいます。設備が壊れて操業が止まった工場は、一刻も早く復旧して稼働させたい。そんなニーズにIBISを使えばスピーディに応えることができるわけです。
IBISでの点検から新規メンテナンスや工事を受注
さらに、IBISを用いた点検を顧客に提案することで、新しい受注につながるという効果もありました。山九は設備の点検だけでなく、メンテナンスや更新のための工事といったサービスも提供しています。IBISの導入でこれまで見られていなかった設備に対しての点検が可能となることで、メンテナンスや工事といった新しいビジネスにもつながっていきます。
IBISで取得したデータをメンテナンスサービスに活かす
山九ではIBISを導入することによって、“狭い”“暗い”“汚い”“高い”といった、人が進入しにくい場所に加えて、これまで顧客から依頼があっても断っていた場所を点検することが可能に。今後は、天井が崩落するリスクがある地下ピットや、酸欠やガス中毒の危険性がある場所での点検を検討していくとしています。
また、現在はLiberawareを通じてIBISが撮影した画像のオルソ化、点群化、三次元モデル化といった分析解析サービスを提供していますが、今後はこうしたデータを山九の設計や工事といったメンテナンスサービスにつなげていきたいとしています。同時に、設備の時系列管理や、設備の設計業務の付加価値向上にも役立てたいとのことです。
溶接や仕上げと同じ技能のひとつとしてドローンの人材育成に取り組む
「IBISを点検作業の中で扱うには、ドローンの基礎的な飛行技術を身につけるところから、モニターを見ながら飛行させて、狭くて暗い空間で点検ができるスキルを身につける必要がある。そのためにはLiberawareの講習だけでなく、1ヶ月程度、毎日IBISを操縦して慣れる必要がある」(山本氏)といいます。そのため、山九の中でLiberawareのIBISを扱うことができる社員は、現在関西エリアで数名と限られています。
そこで、今後は関東の拠点も含めて大幅な増員を検討。「山九では溶接や仕上げといった技能は、社の文化として社員に教育してきた。IBISの操縦技能はしっかりとした教育を受けて、経験も積まないといけないという点で、こうした溶接や仕上げといった技能と相通じる部分がある。今後はドローンの操縦もこれまでの技能と同じように、人材育成のひとつとして取り組んでいきたい」(本間氏)としています。
山九株式会社 関西支店・和歌山事業所 山本拓斗氏(左) 仁儀健太郎氏(右)