株式会社ワット・コンサルティングは、“建設業界の人手不足の解消に貢献する”をテーマに掲げ、おもに建設業界向けの派遣や紹介といった人材サービス事業を中心に、人材の教育・研修事業や業務受託サービスを提供している企業です。同社ではこの建設業界の人手不足という課題を解消する方法のひとつとして、IBISを使った点検・調査サービスを展開しています。今回はそんなワット・コンサルティングの取り組みについて紹介しましょう。
狭くて暗くて危険な現場を人に代わってデータ化できるIBISを導入
現在、高度経済成長期に建設された建物が50~60年経過し、次々と更新の時期を迎え、2030年頃まではこうしたリニューアルや建て替えの工事が増えることが見込まれています。こうした建物のリニューアル工事では、建設当時の図面が必要です。しかし、建設から数十年という時間が経っていることもあって、図面がない場合や、図面と現況が異なっているということが少なくありません。特に天井裏は内装工事のたびに手が加えられて、建設当時から大きく状態が変わっています。また、ダクトや配管、配線類が敷設されているために、リニューアル工事にあたっては現況調査が必要となります。
こうした天井裏の現況調査では、これまでは人が天井裏に入り、構造物や配管・ダクト類の寸法を測定したり、写真を撮影したりして資料を作り、リニューアルの設計を行っていました。しかし、天井裏に人が入って作業するには、狭さゆえの限界があるほか、危険も伴います。そこで同社では天井裏の点検に最適なIBISを導入することにしました。水谷氏は「“狭くて、暗くて、危険な”現場で、人に変わってドローンが作業をしてくれる、ということに着目した。こうした場所に入ることは、他のドローンでは難しく、IBISであればパイロットのスキルを高めれば入っていける、ということが決め手となった」といいます。
また、「IBISを使えば今まで人間の目で見て、写真を撮影していた天井裏の様子が、映像として見られるだけでなく、映像から点群データを作ることもできる。また、天井裏に限らず、建物の地下ピットや下水関連施設など、さまざまな場所に応用できることも評価のポイントだった。」といいます。
現場で点検準備をしている様子
レーザースキャナと組み合わせて、現場全体を3D化
IBISを使った天井裏の調査では、レーザースキャナと組み合わせる形で、点群データから詳細な図面を作成します。「我々は2021年に建設DX推進プロジェクトを立ち上げた。その一環として、レーザースキャナやそのデータを処理するソフトウェア、さらに、効率よくデータを取得するドローンを使うといった形で建設DXを推し進めている。点群データを活用した効率化は、まだまだその一歩を踏み出したばかりだが、今後はこうしたデータを活用していきたい」(水谷氏)としています。
同社では下水処理施設の調査において、施設内に汚泥を浄化する沈殿槽といった水槽の劣化状況を確認するのにIBISを使用しています。鉄筋コンクリートでできた水槽の壁面や天井部、さらには内部に設置してある機械や装置の劣化状況を、人の目視点検に代えてIBISで撮影。従来は水槽の水を抜いて、立てづらい場所に足場を設置して点検作業をするため、コストも時間もかかりました。しかし、IBISを使えば水を少ししか抜かなくていいため、こうしたコストを抑えられるというのが最大のメリットだといいます。
また、配管が入り組んだ廊下の壁面の漏水調査にもIBISを活用しています。同社では、壁面に配管やケーブルラックが設置してある廊下を、レーザースキャナを使って三次元化。ただし、床に設置したレーザースキャナは、配管やケーブルラックの上面はスキャンできません。そこで、IBISを飛行させて設備の上面を撮影し、レーザースキャナのデータを合わせることで、隅々まで詳細な図面を作り出しています。
IBISのパイロットを公募し、建設の各分野に精通した4名を育成
IBISを導入するにあたり、社員をリベラウェアに3か月出向させる形で、中原氏をはじめ4名のパイロットを育成しました。水谷氏は「今年度が創業20周年にあたり、人材サービス企業から人材育成企業への脱却を目指している。2011年以降、若手育成、未経験の育成に特化しており、850人以上在籍している社員の80%は自社育成の社員となっている。その中でドローンの人材を育成するというのは、我々が推し進めている建設DXの入り口である。」といいます。
ドローンサービスに従事する人材は社内で公募を行い、合計40人ほどの中から、中原氏を含む4人を選抜。この4人は建築、プラントなど、各専門分野から選抜していて、ドローンによる調査や点検の対象となる各分野に精通する人材が揃っているのも強みとなっています。
中原氏をはじめ4人のパイロットは、同社の事業所のひとつ、横浜のDXセンターにビルの天井裏を模した環境を整備し、日常的にIBISの操縦訓練を行っています。「IBISは機体に慣れるまでは十分な練習が必要。日々、練習を重ねる中で自在に狭い所にも入っていけるようになり、点検できる場所、請け負える環境が広がった」という中原氏。
梁の下面の様子を見る時には、機体を梁に貼り付けるように飛行させます。中原氏は「映像を見る人のことを念頭に、スピードを出しすぎないように注意して飛行させることを心がけている」といいます。また、きちんと順序どおりに飛んで後から見返しやすい動画を取ることや、急にブラックアウト、ホワイトアウトする状況は避けるように心がけるなど、IBISの操縦を担当するメンバーで話し合いながら、最適な飛行方法を日々探求しているようです。
実際の現場でドローンを操作している中原氏
気負わず練習できる環境が、サービスの幅を広げることにつながっている
IBISのレンタルサービスは、何度でも修理・交換を受けることができるのが最大のメリットです。
「IBISの飛行を練習する中で、どうしても機体を壊してしまうことがある。何度もプロペラを折ったり壊したりしているが、修理サービスも迅速で、気負わずに練習できる環境が、サービスの幅を広げることにつながっている」と中原氏。レンタルして終わりではなく、飛行方法や技術、うまく点群データを取得するための撮影方法といったアドバイスを受けているほか、現場からの質問に対しても迅速に対応が可能なほど成長ができたといいます。
他にも講習会やパイロット派遣を通じて、リベラウェアのパイロットにノウハウを教わったり、個人的にわからない問題を質問しても快く答えてくれるといった対応が、中原氏たちパイロットの技術向上につながりました。
下水処理施設の水槽を点検した際には、万が一IBISが墜落したときのことを考え、機体に浮きを付けて沈まないようにする対策をリベラウェアと実施。飛行に影響しない浮きの取り付け場所や、着水した後、数十分間浮いていられるかといったことを検討しました。浮きを取り付けると空気抵抗が増え、飛行の難易度も上がるため、それに合わせた飛行練習も行ったといいます。
ワット・コンサルティングがドローンを広める役目を担いたい
「建設DX推進の取り組みの中でIBISを導入したことで、常に新しいことにチャレンジして、将来の道を探っていることを社員に印象付けられる。いずれ自分もそういう事業に参加できる可能性があると思ってもらえる」と水谷氏。現在は横浜のDXセンターに拠点を置いていますが、将来的には関西、九州、北海道など全国の拠点にチームを置くことを目指しています。さらに「今はリベラウェアがメーカーとしてサービスを行っているが、いずれはワット・コンサルティングがプロバイダサービスを担っていけるような体制を築きたい」と付け加えます。
また、「近年はインフラの中でも橋梁の劣化が大きな問題となっている。例えば箱桁の内部は、人が入って点検するのがとても困難。そういった所でもIBISを活用するなど、ドローンの広がりを待つのではなく、我々がIBISを使ってドローンを広める役目を担いたい」と、水谷氏はワット・コンサルティングの将来的なドローン活用について語ってくれました。
株式会社ワット・コンサルティング 代表取締役社長 水谷辰雄氏
株式会社ワット・コンサルティング 建設DX推進プロジェクトサービスエンジニア/リーダー 中原悠惟氏
株式会社ワット・コンサルティング 代表取締役社長 水谷辰雄氏(右から2番目)
第二事業部 部長 奥村浩氏(右から3番目)建設DXセンター 建設DX推進プロジェクトサービスエンジニア リーダー中原悠惟氏(右から4番目)